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助けてと言うこの声もウサギのぬいぐるみもわたしは、知っているような気がする。
だけど、思い出せない。いや、思い出したいけれど、記憶の中の何かが邪魔をする。
その何かは一体……。
わたしの中の悪魔と天使が戦っている。わたしは、どちらが大切? 心の奥底からじわりと込み上げてくるこの恐怖と悲しみの正体は何だろう?
ウサギのぬいぐるみを眺めると恐怖と悲しみと懐かしさがよみがえってくる。
『沙和奈ちゃん……』
女の子の声がわたしの名前を呼ぶ。
「あなたは誰なの?」
わたしが聞くと女の子の声が、
『……どうして思い出してくれないの?』と言った。その声は泣きそうに震えていた。
「……」
なんて答えたらいいのか分からない。真っ黒な薔薇の花を真っ赤な薔薇の花に戻したい。わたしは、そう思った。
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