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魔王、モルモットになる
六畳のワンルーム。一人暮らし用だとしても小さく感じるキッチンから、トントントンとリズムの良い音がしている。
家主の男は呑気に料理中。今なら隙だらけだ。
段ボールをよじ登り、上から見下ろすと思ったよりも高かったが、躊躇なくぴょんと飛び降りて着地した。
床に爪が当たって音がしないように、忍足で出口へ向かう。
厄介なのは、出口のすぐ横に台所があることと、重たいドアをどうやって開けるかだ。
__魔法を使うしかない。だが時間をかけてようやく溜めた貴重な魔力をここで使って良いものか……。
悩みながら、この部屋の家主の背中を眺めた。
すると今度は苛立ちを覚えてくる。
__ああ! なぜ我がこんなことで悩まなければならんのだ!! こんな隙だらけの人間ごとき、魔王である我の敵ではないのに!!
先程からどす黒い企みを抱いている彼は、異世界__エルセンガドルの魔王である。
ただし今は諸事情により、本来の姿ではない。
苛立つあまり、うっかり歯軋りをしていたらしい。家主が料理の手を止めて振り向いた。
「あ、また脱走して〜。ダメだよ、モルちゃん!」
叱っているはずなのに、こってりした猫撫で声で言う。
その態度も気に食わない魔王__もとい〝モルちゃん〟は内心舌打ちをした。
今現在、魔王は〝モルモット〟の姿をしている。
食物連鎖の下層にいる、あの草食動物の〝モルモット〟だ。
愛らしい見た目をしているからといって、こんな舐めきった態度で来られてはプライドが許さない。
__我が力を取り戻したら、エルセンガドルに帰る前に、まず貴様を消し炭にしてやるからな!!
可愛いペットが物騒な悪態をついているとも知らずに、家主は緩みきった顔で、切ったばかりの人参のを一欠片摘んで持ってきた。
「モルちゃん、人参さん食べるぅ?」
__ニンジンーーーーー!!!!!!
兎にも角にも、なぜこんなことになったのか。
それを説明するには、一ヶ月前に遡る。
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