僕と後輩

1/1
前へ
/1ページ
次へ

僕と後輩

 僕と後輩は貸しスタジオで、ニューチューブに流す新曲作りに頭を悩ましていた。  僕と後輩は世界を見ていた。どちらが早く夢を実現出来るか、会う毎に夢を語りあった。  今日は、後輩から頼まれて、手伝いに来た。  貸しスタジオは2時間しか取れなかったらしい。  適当に手伝っても良かったが、僕は先輩面をしたく、一緒に悩んでしまった。 「この、フレーズの後、効果音に雨音いいんじゃないか」 と、僕が言うと、 「えっえ、良いですか、雨音、先輩のラッキーアイテムですよね、良いんですか」 と、喜んだ。  一瞬、僕は言わなきゃよかったと、思ったが言ってしまった。 「英語の歌詞と、雨音って合うよな」 もっと余計な事を、言ってしまった。 「ありがとうございます、先輩がよく使う音じゃなく、180度違うのを入れます」 180度違うって、何だ…と思ったが、 「好きなのを入れたら良いよ」と、僕は返事をした。  なかなかやり初めないので聞いたら、 「実は、効果音の入れ方わからないんで、教えてください」 と、言ってきた。 「えっ、そうなんだ、じゃ今回はやめよう、何回か練習した方が良い、音の幅とか深さとか、一番良いの探すの時間がかかるから、ここ2時間だろ」  暫く、後輩は無言になった。  ボソボソと遠慮がちに、 「雨音の効果音、先輩にお願いしても良いんですか」  僕は、悩んだ、僕が入れると半分は僕の曲だ、 「僕と作曲連名になるよ、良いの」 「大丈夫です」 と、今までに見た事もない後輩の笑顔だった。  一瞬、目が眩しくなった。  笑顔を見た途端、単純な僕は、(良し最高のを入れてやるから)と、心で返事をした。  笑顔に後押しされた僕は、僕の中で想像出来る最高の効果音を入れた。  他の部分が、掠れるくらいの出来だった。  いつもの先輩面が、また出てしまった。  後輩は出来上がった新曲をニューチューブに発表した。  後輩のその新曲が、凄い事になった。  有名なイギリスの詩人が、雨音、英語で検索したら後輩のニューチューブが出て、  その詩人が雨音の効果音が素晴らしいと、宣伝してくれた。  世界的ヒットになった、雨音がトレンド入りした。  連名のはずが、僕の名前はなかった。  後輩は僕との連絡を断った。  世界的スターの後輩と、無名の僕。  これも人生だ。調子の良い後輩が、調子良く僕の心まで持っていった。  残念、悔しい、さまざまの心の感情が僕を疲弊させた。  ああいう調子が良い人間が寄ってきたのも、僕が引き寄せたと思って忘れる事にした。  世界を夢見た。  夢破れたわけではないが、後輩と同じところには居たくない。    僕は日本語の歌詞で、僕のラッキーアイテムの雨音を効果音で、ニューチューブにいつも通り出していた。  世界的ヒットの雨音と出し方が似ていると、徐々に評判になり、僕と後輩の関係が公になった。  僕は、  (僕が入れてあげた、  僕しか入れられない特殊な方法だ)  と、会見を開いた。  会見を開いても世間は収まらなかった。  後輩が雲隠れしていたからだ。  雲隠れなら良いが……。  後輩がニューチューブに発表して3年経った。  3年前、貸スタジオで会ったのが最後その後連絡を断たれた。  あの笑顔、忘れられない。    僕は外を眺めた。  今日は雨だ、雨音が悲しく聞こえた。    悪かったと、一言だけ言ってくれたら…。  僕は全部、雨で流した。      終。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加