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妹の墓までは駅から少し歩く。
真っ直ぐに行ってもいいし、左へ出てもいい。山へ向かって行けばいいのだ。かつて歴史上の人物が幾人か、その山を背にして建つ寺で休息を取って英気を養ったのだとか、挙兵した際の本陣にしたのだとか逸話はあるが。
中途半端な檀家として折々に高額な供養料を必要とされて、父はその折々…盆とか彼岸とかだっただろうか…頭に血を上らせながら墓参りをしていた。
それを子どもの目で見ていたわたしは、供養料というのはそんなに忌まわしいものなのかと思っていたけれど。今になって思えば父が短気なだけであって、必要なものは静かに払えばいいのだ。
そんな寺から、山伝いに動いて行ったのは、歴史の人物だけだろうか。
あの墓の前に立ち、そこからまっすぐに山を眺めると。ここに集まる霊魂もまた動いて伝い、どこかに還る前に、山に登るのではないかと思う。
少なくとも、この中途半端な街の中は彷徨いづらいだろう。
だからわたしは、街中を通るのは避けて、左へ出る道を選んだ。
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