真夏のこどもたち

1/130
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
7.08. 5:25 p.m.   セントラル、Shinbashi‐2 雨の街を、男が歩く。  多くの車両が行きかう基幹都道405号線。七月の雨がすっかり路上をひたし、歩道はまるで川のようだ。  道路の両側には黒系統でまとめられたセラミックタイルの高層ビル。低いものでも120階は下回らない。そのほとんどが民間企業のオフィスビル。セントラルの景観条例により、ビルの外に張り出した看板の類はいっさいない。ビルの外側からはそれぞれの窓がどの企業のものか、外部の者が知ることはできない。灰色の雨の中、ビルたちはしっとりと黒光りし、ただひたすら匿名的な無言さでそびえ立っている。  日没まで、まだ少し時間がある。雨だからだろうか。歩道を行く人影は、いつもの水曜日よりもまばらだ。 その歩道を、ひとり行く者がいる。  男は北側の歩道を、Akasaka方面からGinza方面へ、ゆっくりと進んでいる。男は傘をさしていない。が、濡れるのを気にする気配もない。雨そのものに対してまるで関心がないようだ。  季節はずれのロングコート。目の周囲をすっかり包みこむ、遮光スモークのスポーツグラス。男の表情は読めない。   男の名はトクラ・トモキ。  しかしその本名で呼ばれていたのはもうずっと以前のことだ。  昼過ぎに降りだした雨は、夕方に入っても止むことなく、強くもならず弱くもならず、根気強く降り続く。  さきほどからAkasaka方面が騒がしい。遠くでサイレンの音が重なる。緊急車両の列が、猛スピードで西に向かって走り過ぎていく。遠くで煙が上がっている。人々が何か叫んでいる。テレビ局のクルーたちが、撮影機材を肩にかけて全力で走っていく。通行人たちは足をとめ、何事だろうかと囁きあう。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!