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アンドロイドの寿命は面白くて、活動量で決まるんだ。ものすごくめくるめく激しい生き方をすれば寿命は早く訪れる。極力活動せず、のんびりまったり生きていたら、もっともっと長生きする。
ケヴィンは脆いものを嫌う。草木や小動物、すぐに朽ちてしまうものを嫌う。だけどこの日だけは、特別だった。
「あは、今年も用意してくれたんだ?」
「ああ。何年になるかな」
「五十年ぐらい? もうわかんないや」
二人で顔を見合わせて笑う。ケヴィンの瞳が薄く弧を描いて、赤い月みたいだ。
この日は僕がケヴィンの屋敷で暮らすことになった記念日だった。毎年ケヴィンは律儀に、人間のまねごとをして花束とケーキを注文してくれる。ケヴィンが嫌いな、すぐだめになるものを。
「乾杯」
血にように赤いワインをグラスに注ぎ、二人で飲み干す。
「毎年ありがとうね、ケヴィン」
こってりとバタークリームが塗りたくられたケーキを次々に口へと運ぶ。脂っこいものを摂取すると後で体内の掃除が大変なんだけど、『美味しい』って感覚はあるもんだから厄介だ。半分はケヴィンに残しておかないとな。
「愛してる、ルカ」
まだぱくぱくとケーキを口に運んでいた僕を、ケヴィンが抱き寄せてきたので慌ててケーキとフォークをテーブルに置いた。赤い瞳に吸い込まれそうになる。
鼓動を刻みもしない二つの心臓が重なって、僕らはそのままじっと抱きあった。
こんな幸せが、今度こそずっと続くと思っていた。
「ねえケヴィン」
「なんだ」
「セックスしない?」
「……」
アンドロイドにだって性欲がある。今までの相手とは、もちろん普通にしていた。でもケヴィンとは五十年暮らしてきて、一度もそういうことになったことがないんだ。よそではしてるみたいだけど。
「まだ言ってるのか」
ケヴィンはもう呆れ顔で、相手にしてられないという風にふいと顔を背けてしまった。
「ねえ、しようよ」
「しない。何度も話しただろう」
ケヴィンが僕を抱かないのには、ちゃんと理由があった。してしまうと噛みついて仲間にしてしまうか、殺してしまうかのどっちかになってしまうから、って。僕にはどっちもしたくないらしい。多分僕は噛まれたところで吸血鬼の仲間入りはできないし、噛み傷で絶命するほどヤワじゃないと思うけど。
でも、でもさ。
『愛する人に抱かれたい』っていう気持ちは、ごく自然なものじゃない?
生きてきた中で一番愛し合えた人に抱いてもらえないのは、
そして愛する人が別の奴を抱いているのは、
どうにも我慢が出来ないんだよ……。
残ったケーキは冷蔵庫の中で忘れられ、三日後にはカビが生えた。
花束は一週間もすれば干からびた。
ケヴィンはそれらを造作も無くゴミ箱へ投げ入れた。
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