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「でも僕は人殺しにはなりたくない。まだ僕は若いし、何より僕は君の頸が欲しいだけだからね。でも君は僕の希望を受け入れてくれた。『死にたい』って言ってくれた。こんなに幸せなことはないよ。ありがとう」  僕は再び彼の首を絞め始めた。さっきと違って彼の生命エネルギーを感じる。これを待ってたんだ。このエネルギーの灯が消える瞬間が僕はたまらなく好きだ。 「が……はッ……た、くない……ッ」 「何?」  彼は何かを言ったけど僕の耳には届かない。僕は力を緩めて、彼が話しやすいようにしてやった。彼の顔は真っ赤になり、開きっぱなしの口からは唾液が流れ出ている。 「死にたくない……ッ」  驚くことに彼はこの期に及んで命乞いを始めた。 「死にたく、ない……死にたくない……ッ」 「でも、君はさっき『死にたい』って言ったじゃないか。嘘はいけないよ」 「そんなこと言ってない! 俺は、死にたくない!」  泣き喚く姿は哀れでしかない。そろそろ終わりにしようと僕はじわじわと力をこめ、彼の首を絞めていった。 「ま、待ってくれ……ッ、やめろ、死にたくない……ッ!」 「楽しみだな」 「ふざけ……ッ、んな……かはッ……」 「最期に話してあげるよ」  僕は彼の首を絞めたまま、彼らのことを思い出した。 「最初に惹かれたのは、僕がまだ専門学生のときに出会った、同じクラスの男だった。一目見て、彼の頸が欲しくなった」 「ぅ……がッ、は、離せ……」 「でも僕はまだ子供だったから、どうしたら彼が手に入るのかわからなかった。気づいたら僕たちは卒業して、彼とは疎遠になってしまったんだ」  今ではもう名前すらも思い出せない。そもそも僕が惹かれたのは、彼の頸だけだから。 「二人目は……誰だっけ。ああ、そうだ。初めて就職した店の客だ」 「……ぁ、ぐ……死、ね……ッ」 「彼は偶然同じマンションに住んでいてね。階段ですれ違ったときに、試しに突き落としてみたんだ。そうしたら簡単に死んじゃった。打ち所が悪くてね」 「うぐ……は……ッ、あ……」 「でも陥没した彼の頭を見て、一気に興味がなくなった。とりあえず救急車を呼んで、すぐに僕は引っ越したよ」  彼の脈が弱まっていくのを感じる。あと少しで彼の頸が手に入ると思うと嬉しくなって、僕はさらに力をこめた。 「がはッ、あ……ッ」
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