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「三人目は惜しかったな。新しい街で見つけた男で、彼は僕よりも華奢だったから簡単に攫えた。だから僕は油断していた。詰めが甘かったんだ」 「……ひ……ぁ、ッぐ……」 「今、君が寝てる場所。一年前のそこで彼は自殺した。僕がちょっと目を離した隙にね。ひどいよね、勝手に死んじゃうなんて。僕は裏切られた気分になったよ。そんな奴の頸なんていらないから、そこら辺に捨てた。多分、掘り起こせば見つかるんじゃない?」  過去に向けた思考を僕は現在に戻した。彼はすでに虫の息だった。ひゅーひゅーと空気が漏れるような微かな吐息だけが、彼がまだ生きている証だ。 「それからしばらくして、僕は君に出逢った」 「……」 「新しい店は居心地がよかったんだけど、やっぱり物足りなくてね。どうしたものかと思っていたときに君が現れた。今思えば運命だったんだね」 「……死ね」  彼の毒舌も今となっては愛おしい。最期の最期まで僕に悪態をつく彼は、とても可愛らしかった。 「君を……あれ?」  視界が滲んだと思ったら、頬に何かが流れ落ちた。 「……どうしたんだろうね、僕……何で泣いてるんだろう」  両目から流れた涙は、冷たくなっていく彼の頬に落ちた。 「まあ、いいや。僕なんかに目をつけられるなんて運が悪かったね。今度生まれ変わったら、僕みたいな人間に気をつけるんだよ。それから――」  そのとき、指を伝って感じていた脈動が止まった。僕は彼の顔を見た。僕の流した涙が頬を伝って、彼もまた泣いているように思えた。 「……死んじゃったんだね」  僕は彼の首から手を離し、冷たくなった上体を起こして、ぎゅっと抱きしめた。 「愛してるよ……」
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