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「あれ、何に使うかわかる?」 「……」 「でもそれは、これからのお楽しみ」  無反応の彼に対して僕は明るく答えた。純粋に嬉しいからだ。ここまで堕ちた彼に、僕は最期の質問を浴びせた。 「ねえ、これからどうしたい?」 「……死にたい」  彼の言葉は簡潔だ。 「どうして?」  僕は理由を聞いた。 「……こんなこと、されてまで……生きていたくない」 「死にたいの?」 「……死にたい」  彼はすべてを振り払うように目蓋を固く閉じた。  すすり泣く声と共に、目尻から溢れた数滴の涙が彼の頬を伝う。 「そうか……その言葉を待っていたよ」 「……え?」  僕は彼の上に馬乗りになると、首輪をずらして現れた喉元に十本の指を絡め、徐々に気道を圧迫した。  彼は息苦しさに眉をひそめたが、やがて訪れる終わりを予感して何ひとつ抵抗しなかった。 「……つまらないな」  彼は今までの彼らと何かが違う。こんなにも簡単な死なんて僕は望んでない。  僕は指にこめた力を抜いた。呼吸を取り戻した彼は少し噎せた。僕は彼の上に跨ったまま天井を見て言った。 「あのフックの使いかた、さっき話したよね」 「……」 「あれに何を吊るすかわかる?」  彼は虚ろな眼をしたまま首を左右に振った。  僕は身を屈め彼の耳元で囁いた。 「死体だよ」  彼は目を見開いた。  それから口をパクパクと動かし、何か言いたげな素振りを見せた。  気をよくした僕はさらにたたみかける。 「死体になった君は、あれに吊るされるんだ。そして誰にも知られることなく、君は腐敗していく。内側から徐々に腐っていって、やがて君は骨になる」  僕は彼の首から手を離し、彼の顔を優しく包みこんだ。彼の顔は冷たくこわばっていた。 「そして重力に耐え切れなくなった君の身体は、崩れてバラバラになる。想像できる? この首輪を境に、君の頭は胴体からもげるんだ。ゴトリ……という音を立ててね。それまでとても長い時間がかかるけど、僕はずっと待ってるから安心してくれ」 「な、何……言って……」  彼は明らかに動揺し始めた。  淀んでいた瞳はもうそこにはなく、今は恐怖や怒りといった感情が滲み出ている。  僕は彼の額にキスを落とし、髪を梳きながら言った。 「僕は君の頸が欲しいんだ。だから君を殺して頭蓋骨だけ貰おうと思ってね。君のものは良い形をしている。少し触っただけでわかったよ」 「……狂ってる」
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