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「このぉ、化け物めぇっ!!」
甚六は叫んだ。
叫んでも、どうにもならないことは分かっていたが、声を上げずにはいられなかった。
「ねぇ、甚六さん。今日は、おっかさんの命日だと言ったでしょう? きっとあんたを呼んでくれたのね……」
雨音が女の声を包む。二人の姿は夜陰に溶け――。
翌朝。
荒れ果てた山寺の本堂の前で、血まみれの着物が見つかった。それが、麓の村の油問屋で残虐な強盗殺人を働いた『般若の甚六』が身に付けていたものだと、唯一生き残った下男が証言した。
しかし、甚六は、ついぞ見つかることはなかった。
【了】
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