ひまわり

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ひまわり

「孝寿」 「おう」  佐々木夜に告白するのだとほのかが言った数日後。昼飯を終えて部屋で寝転がっていたらほのかがきた。  ほのかの顔にはなんにも浮かんでなくて、悲しいとか辛いとかそういうのも、嬉しいとか楽しいとかそんなものも、なーんにもない。  ノックもせずに部屋に入ってきて、俺に断りなんかいっさい入れずに、ドカッと俺が寝っ転がっていたベッドに座った。  きっとろくな話じゃないんだ。聞きたくねーなー。でもそういうのをわざわざ俺にだけ言いにくるから突き放せない。一番ろくでもないのはたぶん俺だ。  手に持っていたマンガを横において、のそのそと起き上がる。ほのかに並んで座って顔を覗く。 「なんだよ」 「フラれた」 「そうかよ」  そりゃそうだろう。夜が川瀬以外の女子に興味を持つわけがない。 「あんまり驚かないんだね」 「夜がお前に興味を持つと思えないし」 「ひどい」 「いや、お前だってわかってただろ」  そう言うとほのかはむすっとしてうつむいてしまう。 「わかってたよ。わかってる……つもりだったんだけどなー……」  ほのかは後ろにぱたんと倒れ込んだ。  我慢大会かなにかだろうか。ほのかはお気に入りだと言っていた、水色のひらひらしたスカートをはいている。そんで寝っ転がるから、膝から太ももの半分くらいまでが見えている。  触りたいなーとか、横に俺も寝っ転がりたいなーとか、いろんなよこしまな気持ちを抑えて目をそらす。  よこしまが悪い気持ちなら、たてしまはいいのかとか、そういうバカなことを考えて気をそらす。 「ちょっとくらい、気にしてほしいじゃん」 「そっか」 「ダメだったけど」  それっきりほのかはなにも言わない。白い太ももを目に入れないように、ほのかの様子をうかがうと、手で顔を押させている。  あー、ヤダヤダ。 「ちょっと待ってろ」  部屋を出て一階に向かう。居間では姉貴がポテチをかじりながらテレビを見ていた。 「あー孝寿。どう? ほのかちゃんとイイ感じ?」 「最悪だよ」  そう吐き捨てて机の上の花瓶から花を一本抜き取った。 「ヒュー、ロマンチック!」 「うるせえ!」  クソみたいな姉貴の野次に怒鳴り返して部屋に戻る……前に洗面所でタオルを掴んで濡らしていく。  俺はあいつのなんなんだよ!  心の中で悪態を吐きながら部屋に戻った。ほのかは先ほどと同じ姿勢のまますすり泣いている。 「おまえはさあ、ほんとさあ」  ほのかの顔にタオルを投げる。ひゃっと声が上がって、ほのかは飛び起きた。 「なにすんの」 「タオル。ヒドイ顔拭いとけ」 「言い方ひどい」  ぶつくさ言いながらもほのかは顔を拭いて、目を冷やす。 「あとこれ」  できるだけほのかの顔を見ないようにしつつ、持ってきたヒマワリを差し出した。 「なに、これ」 「居間の机に置いてあったんだよ。んで……なんだ。ほら、お前は、笑ってる方がかわいいだろ。だから……てのも変だけど。いいからもらっとけよ」  ぽかんとするほのかにヒマワリを押しつける。 「バカじゃないの」 「ああ、そうだよ。ほんとに俺はバカだ」  そう言ってやると、ほのかはやっと笑ってくれた。うん。やっぱりお前は笑顔が一番かわいいし、俺の中ではお前がいつだって一番かわいいんだ。
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