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水鉄砲
その日は小崎町小学校のプールの清掃日で、六年生と五年生の男子が集められて掃除をしていた。
僕はデッキブラシを持ってゴシゴシとプールの底をこすっている。
「夜ー、水流すぞー」
「おー」
ホースを持ったやつがあちらこちらに水をまき、濡れたところを近くでデッキブラシを持っている人がこする。
「くらえ!」
「うっわ」
突然横から水が飛んでくる。避け損ねて尻餅をついたら、プールサイドでニャンタカがホース片手にゲラゲラ笑っていた。
「おまえー!」
走っていってデッキブラシでホースを引っかけ奪い取る。ホースの口を潰してニャンタカに水をかけると、他のやつにホースを横取りされる。
後ろから水をぶっかけられたのでニャンタカに目配せして、二人でデッキブラシを持って相手を挟み撃ちにする。
六年生がその調子で遊び始めたら、五年生の男子だけがマジメに掃除するわけがない。気づけば全員水浸しで、プールサイドはびっしょびしょ。一応プールの底の掃除は済んだけど、先生達はお怒りだった。
「掃除の時間!」
「遊ぶ時間じゃないんですよ」
「来年には中学生になるというのに」
「いつまでも小学生気分で遊び回って!」
「「「すみませんでしたー」」」
長いお説教にみんなでおざなりに謝って解散する。
家に帰ったら着替えて洗濯しなきゃ。そう思うのは自由研究のおかげだ。
「あー楽しかった」
横ではニャンタカがまだ笑いながら歩いている。
「こんど海行こうよ。水鉄砲持って行くから」
「あーいいな。俺も持っていく」
「じゃあ他のやつも誘おう」
終わりが近いとはいえ、夏は夏。びしょぬれだった服は少しずつだけど乾いていく。
「夜はさー」
ニャンタカが前を向いたまま、ぼそぼそと話し始める。
「うん?」
「ほのか、嫌い?」
「興味ない」
「だよな。知ってた。川瀬は」
「大好き」
「それも知ってたわ。なに聞いてんだ俺は」
僕は何を聞かれてるんだろう。
「ニャンタカは美海に興味ないだろ」
「うん。別に」
「けど田崎さんのこと大好きじゃん」
「おうよ。……いやいや、別にそんなことはだな」
当たり前のように返事をしておいて焦るニャンタカが面白い。隠さなくたって、何一つ隠れてないんだから気にしなくていいのに。
「同じだよ」
「そうかよ。……一緒にされたくねえなあ」
「同じだろ、どう考えても」
ぶつぶつ言うニャンタカにダメ押しする。諦めろ、ほんと、同じようなものだから。
「そういや、夜は宿題終わった?」
ニャンタカがぱっと振り返る。嫌な予感しかしない。
「だいたい。明日見直しする。見せないからね」
「なんだよ、ケチだな」
「自分でやるものだよ」
「はいはい。見ねえよ、俺もちゃんと終わらせたんだ」
なんだって。ニャンタカが自分で宿題を終わらせた?
「どしたの。めずらしい」
「失礼かよ。俺だってやるときゃやるんだ。つーかほのかが延々と愚痴ってるの聞きながらやってたら終わった」
「あー……そう」
それについて僕から言えることはない。なんであれ、ニャンタカが宿題を自力で終わらせたなら、いいことだ。
「じゃー、また新学期。その前に夏祭りかな」
「会えたらね。じゃあ」
ニャンタカはさっさと自分の家の方に向かっていく。僕も急いで帰って着替えよう。半乾きの服がべたついて、気持ち悪くなってきた。
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