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第一章 似ている二人 5
(そうだ!どことなくナオに似てるんだ……)
夢から醒めた瞬間、拓海は唐突にそう思った。
姿形こそ似ていないが、ふとした瞬間に見え隠れする淋しさが、雅尚と蘭藤は似ているのだ。
初対面の彼を放っておけなかったのも、雅尚にあの朝の事を言えなかったのも、きっとそのせいに違いない。
拓海は自分の目から涙が零れているのに気が付いて、パジャマの袖でそれを拭った。
雅尚は底抜けに明るい笑顔の奥に、いつもグラグラと煮えたぎる怒りを秘めている。そして昨晩のようにふとした瞬間、やるせなさを覗かせる。けれど他人の心の機微に人一倍敏感な彼は、決して彼自身の心の奥には触れさせてくれなかった。
雅尚が高校を卒業してから、社会人になって拓海と再会するまでの数年間をどう過ごしていたのか、拓海は未だに訊けないでいる。
今もよく顔を出しているゲイバーのママにお世話になったらしいことと、高校の頃からバイトしていたスポーツ用品店で店長をしていること、そして叶わぬ想い人の他に何人かのセフレがいるらしいこと。
拓海が雅尚について知っているのはその程度だった。
蘭藤もきっとあの“外用”のポーカーフェイスの下に、複雑な感情を内包しているに違いない。今も昔も、感情を露わにするのを許されない環境にいるのではないだろうか。
(笑顔、素敵なのになぁ)
ではまた、と帰り際に言われたような気もするが、あれから互いにお礼のメールを一度送り合っただけだった。
(受け取らなければ良かったかな……)
壁に立てかけた写真集を遠目に眺めながら、拓海はぼんやりとそう思った。
第一章 完
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