第二章 貴志川雅尚 1

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第二章 貴志川雅尚 1

「……んっ、アッッ」 肌の上を舌や唇が這う濡れた音と甘い嬌声が室内に響く。 口での愛撫と同時にトロトロと蜜を零す屹立や後孔を優しく強く緩急を付けて刺激され、その度に雅尚の体が震えて切なげな声が漏れた。 「あぁ、ソコ……っ」 「ん?ココ?」 顔を上げたユウタはニヤリと笑うと、雅尚の赤く膨らんだ胸の突起を軽く噛んだ。 「ひゃっ」 上気した雅尚の体がビクッと跳ねる。ユウタはそれを満足げに眺めると、雅尚の後孔をほぐしていた指を引き抜いて、腰をゆっくりと深くうずめた。 「あっ……ダメ、お、くっ……ぁっ!」 突き抜けるような快感に雅尚の腰が揺れた。それを逃さぬよう、ユウタはその細い腰を掴んで深く深く雅尚の中に何度も自身を穿った。 「ナオちゃんココ好きだもんね?」 ペロリと舌なめずりをして、ユウタは狙った場所を何度も責めた。 「ぁあああっ、ダメ、ダメッ……イっちゃ……あっ」 雅尚の体が一際大きく震え、何度目か分からない絶頂を迎えるのをユウタは恍惚とした表情で見下ろした。 「なんか今日のナオちゃん凄いね。カワイイ」 「……んっ」 半開きになった雅尚の口内へ、ユウタは熱い舌を滑り込ませた。 雅尚が拓海の家からタクシーを捕まえて向かったのは安いラブホテルの一室だった。 拓海の家で浅い眠りから覚めた瞬間、“今頃本当はあの人に抱かれているはずだったのに”と思い始めたら体中がゾワゾワしてたまらなくなった。タイミング良く届いたユウタからの誘いのメールを“救いの舟”とばかりに、雅尚は拓海の家を飛び出したのだった。 雅尚にとってセックスは自分をこの世に留めておくための手段の一つだ。 最初はただのお金を稼ぐ手段の一つだった。だが誰かの体温を感じ、体を求められ、「気持ち良い」「可愛い」とその場限りの睦言を囁かれると、その瞬間だけは自分がこの世に必要とされていると思うことが出来ることに気が付いた。 だからいつ何時(なんどき)でも衝動に襲われたら相手が捕まえられるように、雅尚は常に複数のセフレと関係を持っていた。 ユウタは中でも一番付き合いの長いセフレだ。体の相性が良いこともあるが、何よりユウタ自身も相手が複数いて本気になられる心配が無いことが、長く続いている理由だった。 けれどそんな雅尚でも、“あの人”のことはセフレの一人として割り切れなかった。彼のセックスはいつも義務的で、けれどどこまでも優しい。ユウタとは対照的に、“自分はこうしたい”という意思を一切感じない。 体は重ねても心と唇を重ねてはくれない彼との行為は、苦しくて、けれど特別だった。 「ナ~オちゃんっ」 不意に名前を呼ばれて、吐精直後の夢現(ゆめうつつ)から引き戻された。 雅尚は目の前の(とろ)けた顔で微笑むこの男は誰だっただろうかと一瞬思い、直ぐにあぁユウタだったと思い出した。 吐精の度に毎回こんなことを繰り返しているとは考えたことも無いであろうユウタは、再び雅尚を恍惚の世界へと(いざな)った。 「あっ……今、イったばっか、なの……にぃっ」 うつ伏せにされて後ろから抱きすくめられるように後孔を穿たれ、そのまま上体を起こされた。ユウタの上に座るような格好にされて気怠い体は抗うことも出来ず、最奥まで彼を受け入れた。 「はぁっ……あっ」 中からビリビリと快感が広がっていく。雅尚の首元に顔をうずめたユウタは跡が付くほどに強くその白い肌を吸った。 「やっ……ヤダッ」 「あ……ゴメン。ナオちゃんが可愛すぎてつい」 「ふ、ざけ……!」 痕を付けないという約束を破られたことに、雅尚は一瞬カッとなった。 「もっと気持ち良くしてあげるから、許して?」 言葉とは裏腹に反省の色の無い声でそう囁くと、ユウタは雅尚の両の突起をキュッとつねった。 「んんんっっ」 刺激に体を捩ると穿たれた最奥にも電流が走った。自分の両脚の間にユウタの両脚が入っている状態なので、脚を閉じることもままならない。怒ることも、だらしなく開いた口を閉じることも出来ずに、雅尚は与えられる快感の波に呑まれていった。 「もう、ムリッ……も、出な、いぃ……」 雅尚のギブアップの声と共にユウタは屹立への刺激をさらに強めた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あっ」 彼が手を上下させる度に雅尚の口からか細い声が漏れた。 「ナオちゃん、久しぶりに吹いてみよっか……潮」 「なっ!?あ!やめっ……あ、ああぁっ!!」 プシュッという音と共に透明な液体が放出され、雅尚は意識を手放した。 どれくらい気を失っていたのか、雅尚は頭を撫でられる感触に目を覚ました。ユウタが全ての後処理してくれたらしく、体はサッパリと拭き清められていた。 「ねぇ、ナオちゃん。もう、オレだけにしない?」 雅尚が薄目を開けた事に気付いたユウタがそう言いながらキスをした。 「……寝言は寝て言って」 しつこくキスをしてくるユウタを軽く手であしらうと、雅尚はそう言って彼に背を向けた。 「え~冷たいなぁ」 拗ねたように言いながら、ユウタは雅尚に抱き付いて眠りに落ちた。
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