派手な傘

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 いつの間にかうたた寝をしていたらしい。  悲しい夢を見た気がするのに細部までは思い出せなかった。  目を閉じたまま微かに聞こえる窓を打つ音が心地よくて、耳を澄ませる。  部屋の中で聴く雨音が私は好きだった。 「ねえ、和葉ちゃんー……」  下の階から再び母の声が私の邪魔をする。  母が私をちゃん付けするときは大抵面倒くさい用事を押し付ける時だ。 「なーにー?」    うつ伏せのまま顔だけを横にして目一杯に出した声はたぶん、というか絶対に母のいるリビングまでは届いていない。  仕方なく起き上がり半目のまま階段を降りた。 「なに?」 「駅までお兄ちゃん迎えに行ってあげてくれない?」  やっぱりだ。どうして高校生にもなる兄の迎えに行かないといけないのか。母の兄への過保護ぶりには呆れてしまう。 「なんでよ」 「雨降ってきちゃったから。お兄ちゃん傘持って行かなかったのよ」 「もう、なんであいつ……」  なんであいつのために私が、そう言おうとして止める。母は兄の事を悪く言うのを許さない。  母が不機嫌になる前に、駅まで行く準備をした。  傘立てにあったビニール傘を適当に手に掴む。  もう一本、今度は兄の傘だ。何故か兄だけは自分の傘を持っていて、それが虹色の派手すぎる傘なのだ。  傘なんかなんでもいいし、ましてやこんな趣味の悪い傘を自分の物にしている兄のセンスを疑う。 「ダサい傘……」  私は独り言を呟きながら、玄関のドアを開ける。  開けた途端に腕が濡れた。  肌を直接濡らす雨は、部屋の中で聴いていたあの心地いい雨とは別人のような顔をしている。  傘にぶつかる音がうるさくて鬱陶しい。
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