派手な傘

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 やっとの思いで駅へと着くとちょうど兄が改札から出てくるところだった。 「傘くらい持っていきなよ」  素っ気なく傘を手渡す。 「悪いな、濡れなかったか?」 「濡れたわよ。傘なんて意味ないくらい降ってるじゃん」 「そうだよな。母さんには迎えに来なくていいって言ったんだけどな。悪かったな和葉」  兄は謝ってばかりだ。私に気を遣っているのが手に取るようにわかって、それがまた煩わしい。  兄と私は、血が繋がっていないから気を遣うのは当たり前かもしれない。  けれど、その気遣いが血縁以上の壁を作り出している気がしてしまうのだ。  帰り道は少し離れて歩いた。  兄は何度か私に話しかけたみたいだったけれど、雨のせいでよく聞き取れなかった。  家に着く直前に、突風で兄の傘の骨が折れた。もう何年も使っているから寿命だったのかもしれない。 「もう捨てたら?」  私の提案に、兄は首を振った。傘を畳んで、悪いけど先に帰るよ、とだけ言い残して雨の中走り去った。  入れてくれと一言頼めば、それで済んだはずなのに、また私に気を遣う。
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