派手な傘

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 無我夢中で、階段を登った。兄の部屋の前に立つ。    何を言えばいいのかわからないけれど、とにかく何か言わなければいけない気がして。  扉を開ける。    ベッドに腰掛けて本を読む兄の姿が目に飛び込んできた。 「お兄ちゃん……」  何年振りだろう、お兄ちゃんなんて呼んだのは。 「どうした?」  兄が本を閉じて、不思議そうな顔をこちらに向けた。    窓を打つ雨音が何も言えない私を責めたてるようにうるさく響く。 「あの傘捨てるよ」 「まだ使えるって」 「もういいの」 「何が?」 「もう、見つけられるよ。お兄ちゃんのこと」  私の一言で全てを悟ったように、兄は笑った。 「そうだよな」  明日、新しい傘を買いに行こう。二人で。  とびきりオシャレな傘を。  この雨音が消えてしまう前に。
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