4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
無我夢中で、階段を登った。兄の部屋の前に立つ。
何を言えばいいのかわからないけれど、とにかく何か言わなければいけない気がして。
扉を開ける。
ベッドに腰掛けて本を読む兄の姿が目に飛び込んできた。
「お兄ちゃん……」
何年振りだろう、お兄ちゃんなんて呼んだのは。
「どうした?」
兄が本を閉じて、不思議そうな顔をこちらに向けた。
窓を打つ雨音が何も言えない私を責めたてるようにうるさく響く。
「あの傘捨てるよ」
「まだ使えるって」
「もういいの」
「何が?」
「もう、見つけられるよ。お兄ちゃんのこと」
私の一言で全てを悟ったように、兄は笑った。
「そうだよな」
明日、新しい傘を買いに行こう。二人で。
とびきりオシャレな傘を。
この雨音が消えてしまう前に。
最初のコメントを投稿しよう!