1人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
「おかえりー」
彼、藤岡大知(38)は、課長をやっている。入社から出世し、年齢相応の職業についていると本人も思っているが…
「はあ…本来だったら子供と奥さんが返事を返してくれて…」
そう、この男独身であった!若い頃は仕事に必死で、恋愛なんぞする暇もなかった。そうこうしている内にアッと言う間に時はすぎていき、いざ結婚しようと思ってももう38。課長と言っても社員とそこまで給料がちがうわけでもないのだ。大ピンチである!
「ああ、どうしてこんなことに…」
ピンポーン
そんな暗い大知の考えを遮ってくるように、インターホンが鳴った。
「アナゾンで頼んだ電子レンジかな」
そんなことを考えてドアを開けると、そこには警察がいた。
「…!?な、何でしょうか?」
「ハハ、逮捕しに来た訳じゃないですよ。この装置を渡しに来たんで。」
警察が渡したのは黒いメタリックなリングだった。
「なんですか、これ?」
「ええ、ニュース見ないんですか?転送装置ですよ。」
「転送装置…?」
「はい、最近は食糧問題とか少子高齢化とか言うでしょう?解決策としていっそ電脳世界、「ニューワールド」に全人類移ってしまおう。てなりましてね。すごいリアルなもんで、不死身になれるとか、五感や結婚とか、今と変わらない暮らしが出来るとか。」
その言葉は大知を魅了した。特に、結婚というワードには。
「結婚…!ですって!」
「ああ、はい。結婚も出来るみたいですよ。えっ!一軒家なのに、もしかして独身ですか?」
「はい…そうなんです。そうこうしてる内に34で…」
この男、サバ読んでいる!実際は38だ!
「へぇ、言っちゃ悪いけどそれにしては老け顔ですね。」
バレた!
「じゃあ、次の人のところにも届け行かないとなんで。」
「あ、ご苦労さまです。」
最初のコメントを投稿しよう!