ゴミを愛す

2/15
前へ
/52ページ
次へ
ずるずると膝を崩し、座り込む。 蛇口からこぼれ落ちる雫の音を聞きながら考えた。 一週間前、成島君にキスをされた。 そして僕もキスを仕返した。 夢中になって貪り合い、涎が垂れるほどにお互い求め合った。 我慢していた糸がプツリときれたかのように。 ニャーと言う、野良猫の鳴き声が僕を我に返した。 それを合図に僕は成島君から離れて、逃げる様に自分の部屋へと戻り鍵を掛けた。 ドクンドクンと鈍く脈打つ心臓に鬱陶しさを感じながら玄関のドアに背をもたれて座り込んだ。 成島君がドアをノックする事も、チャイムを鳴らす事もなかった。 まるで何事もなかったかのように、アパートの階段を下っていく乾いた足音だけが寂しく響いた。 それから成島君が僕を訪ねてくる事も、偶然会う事もないまま一週間が経っていた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加