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「酷いっすよ……俺捕まりたくないって言ったのに」
あんなに優しくしてくれてたからまさか騙されるとは思わず本気で落ち込んでいる。そんな様子の俺にアワアワと慌て出す咲野先輩。
「だ、だってぇ、もっと仲良くなりたかったんだもん!」
「それは捕まえなくても出来たじゃないっすか!」
「え、僕と仲良くしてくれるの?」
「しますよ、俺だって咲野先輩と話すの楽しかったし……」
「そっか、……へへ」
酷い、俺はお願いごとを聞いてもらえるチャンスだったのに、俺の叶えたかったことが1つ叶えられるとこだったのに。
「酷いですよ……」
「ご、ごめんね?」
「もう過ぎたことなんで諦めます……」
「なんでそんなに捕まりたくないの?理事長目的?」
「へ?理事長とか興味無いっすよ?お願いごとなんでも聞いてくれるってやつですよ」
そういえばお願いごとじゃなくて理事長とディナー権?的なのもあったな。申し訳ないがノンケの俺からしたら理事長とのディナー権なんて微塵も興味が無い。
項垂れている俺の肩に手を置き大丈夫と意気揚々に語ってみせる先輩。
「僕が変わりに叶えてあげるから!教えて!」
「わ、笑わないっすか……?」
「笑わないよ!」
「……ハーゲン○ッツ1ヶ月分、欲しかったんです…」
「へ?そんなこと?」
やっぱり、金持ちに言ったらそんな反応が返ってくると思ったから言いたくなかったのに、酷い、酷すぎる。
「お金持ちに俺の気持ちなんて分かんないっすよ」
「いや、ご、ごめんね?でもそれなら僕が用意してあげる!」
「大丈夫です……また次の機会があればにします」
これ以上過ぎたことにグズグズしてもいられない。今できなくても大人になったらやればいいだけの話。自分のお金じゃないお金で達成出来ると少し期待したがまあもういい。まずは体育館に向かわなければ。
「別に1ヶ月分もお願いしなくて良くない?特待生だし無料なんだから買って食べればいいじゃん!」
「うーん、そうじゃなくて……」
そりゃそうなんだけど、なんか違くて。
首を傾げて返答を待つ咲野先輩になんて説明するか悩む。
「なんか自分の冷蔵庫にいっぱいハーゲン〇ッツ入ってるの贅沢感ありません?1回は体験したいじゃないっすか……」
「…なにそれ可愛い」
「もういいです、咲野先輩嫌いっす」
「へ?!な、なんで、ごめんごめん!もう言わないから〜!」
咲野先輩を置いて体育館へと向かう。ごめんごめんと服の袖を引っ張り謝る咲野先輩が少し可愛い。もう全然怒っては無いけど反応が面白いのでもう少しこのままでいようかな。
「ほんとにごめん!土下座でも何でもするから許してよお〜」
「……ぷはっ、ぷははっ!」
ほとんど半泣きになりながら抱きついてきた咲野先輩に耐えきれなくなり吹き出してしまった。そんな俺にビックリして一瞬固まった咲野先輩は一気に顔を赤くする。
「もしかしてからかったの!?酷いよ奏多くん!」
「俺を騙した罰ですよ」
そう言ってべーっと舌を出すとまた動きが止まる。大丈夫かと心配になり声をかけるとまたさらに顔を赤くして俺よりも早く歩き始めた。無言で突き進むもんだから余計心配で声をかけながら俺も着いていくが体育館に着くまで咲野先輩から返事はなかった。
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