1. あたしが小説のヒロイン?

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 かっこいいを新幹線の速度で通過して、ちょっと危ういというのがあたしの見解だ。  とりわけたった今、その印象は増しに増した。 「おい、なんとか言えよ」 「のっぺらぼうみたいなそのツラ、いつまで続けられるかね」  今まさに、クラスの強者たちにどさっと胸倉をつかまれ、殴られる寸前というのに、危機感が一ミリもない。  今自分が置かれている状況にすら関心がないかのような。  ようするに、やる気のない顔をしていた。  教室にいるときと寸分たがわない顔で、囲まれている九龍は呟いた。 「いいけど、べつに」 「はぁ?」  なんならあくびでも出そうな顔で、九龍は言をつぐ。 「集団リンチとか、してもらってもいいけど」  別にこの世に未練とかねーし、と吐き捨てられた言葉。 「やるなら、さっさと殴ってくんね?」  けだるげにつぶやくその瞳には、くすぶった光。  仲間をひきつれて暴行にきたやつらよりよほど異彩を放っている。 「なんだよこいつ、こわ」  風向きが、変わった。  うすきみわる的な空気が、不良たちのあいだに充満する。  すっと、その空気から一束、息を吸いこんだ。  今だ。
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