嫌な予感

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「___撃て!!」 合図と共に激しい銃声や叫び声が聞こえ、ドグは振り返らずに走り出した。 暗闇の中、無我夢中で走る。 月明かりだけを頼りに何とか山を駆け下りた。 後ろから誰かが着いてくる気配は無い。 ドグは近くの岩陰に身を潜め、ほっと息を吐いて胸を撫で下ろした。 「……川を探さねぇと。」 気を抜くのはまだ早いと(かぶり)を横に振る。 「ぐッ…、…ふ、…はぁ……」 「痛むか?」 「…あァ。だがこれぐらい何ともねェよ。」 「はっ。流石はゴリラだな。」 「誰がゴリラだクソ犬。」 「水をとってくる。野生化すんなよゴリラ。」 「俺はゴリラじゃねぇぞ!!」 「大声出すな!!人が来るだろーが!?」 ─パキッ─ 小枝を踏む音がして、二人はビクッと体を肩を揺らして息を飲んだ。 「…ちょっとB-001さん。僕を置いて行かないでくださいよ。」 「「あ、焦ったァ……!!!」」 「え?」 「ビビらせんなよ。敵かと思っただろ。」 「…何の事かさっぱりですけど、B-001さんにもビビるとかいう感情あったんですね。」 「俺を何だと思ってんだお前は。」 「残虐非道な狂犬ですかね。」 「おーし、殺す。」 「冗談です。」 呆れとも安心とも言える溜め息をつき、ドグは地面に腰を下ろした。 「酒が飲みてェな。」 「帰ったらいくらでも飲めますよ。」 「………はっ。そのポジティブな思考だけは褒めてやるよ。」 「それはそれは。」 「おい、ドグ=ブラッディ。煙草は?」 「名前で呼ぶな。…ねーよンなもん。」 「チッ、使えねぇ犬だな。」 「黙れ脳筋ゴリラ。」 「だから俺はゴリラじゃ__」 「シッ。…また何か来る。」 再び彼らの間に緊張が走る。 ドグは立ち上がり、拳銃を構えて岩陰から頭だけを出して様子を伺った。 「…おいクソ女。敵は殺したんだよなァ?」 「はい。間違いなく。」 「じゃあアレは何だ…?俺の幻覚か…?」 「は?」 今度は十人はいるであろう敵兵達がこちらに向かって来るのが薄っすらと見えた。 「また敵兵…!?」 「オイオイ、まさかとは思うけどよォ…」 ドグは冷や汗をかき、ドクドクと嫌な音を立てる心臓を沈めるように胸元を握りながら、ゆっくりと後ろを振り返る。 「お前、裏切ってねェよな……?」 月が雲に隠れ、明かりが消えた。相手の表情は分からない。何を考えているのかも分からない。だが確実に、相手は何かを言おうとしている。 「……何とか言いやがれ。クソゴリラ。」 「………………。」 口を開き、何かを言いかけたその瞬間。 ドォンと耳を塞ぎたくなるような爆音が辺りに響き渡った。
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