The remaining prologue

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 前世、私は人間だった。名前は廣瀬ナツ。  猫としての記憶は実際あそこからなので、どうかご容赦くださいとかそういうやつ。というより()まれた場所なんて後で親に教えられるくらいでしか知りようがないだろ。  親がアキとフユで、だから子がナツとハル。そう固めるなら苗字も変えればよかったのに。小さい頃にそう素朴な疑問を問うたら今気づいたかのような愕然をされたことは今でも思い出せる。  私の家はいわゆる社会の裏、非日常を日常として過ごしていた。異能や魔術の存在する、極道マフィア国家権力お構いなしの、力がものを言う世界だ。しかし異能・魔術は本来世界に存在しない、外夷(がいい)による世界の『(ひず)み』だと突き止めた私とハルの父であるナツは、表向き(裏の社会だが)日本の政府組織の構成員として各地を転々する必要のある任に就きながら、各地にいる協力者と共に元凶からの根治に挑む極秘の計画を進めていた。 「ハル……ハル……!」  外夷、【魔術師】グアルドルムに廣瀬は三度挑んだ。一度目に挑んだ両親はそのまま帰らぬ者となった。遺言を受け取り、十分な力を付けたと踏み姉妹で挑んだ二度目で、妹を喪った。 「姉さん…………」  異能と魔術、英語ならPassiveとActive。  異能は特殊な形態への変身や特定の属性魔法を簡便に発動できるなど、一つに特化し鍛えるほど強くなれた。私と母はこっちで、どちらも猫に変身するものだった。猫魔術が使えた。  魔術は一つ一つ会得と発動が必要な代わりに、一人で多数の属性・術を扱え、魔術式の洗練によって力や形態が無限ともされた。父はこっちだった。一人であらゆる状況に対応できるオールラウンダーだった。 「おい、おい大丈夫か! おい!」 「ね、姉さ、ん……ごめん、も、だめみたい……」  本来一人で両方持つことのできないこの二つを、ハルは両方備えていた。いや、実際は異能持ちの側だったのだろうか。『あらゆる魔術を無詠唱で使える代わりに、家族以外への記憶力が非常に乏しい』。一種のサヴァン症候群のような異能だった。デメリットのある異能も常時発動型の異能もあるが、これほどのものはハルだけだった。 「あれ、に……あれの……力じゃ、ダメ……」  猫魔術にある治癒の魔法は弾かれた。彼女自身もちろん治療魔法の最高峰をも無詠唱で扱えたが、それも嘲笑うかの様にグアルドルムによる傷は笑っていた。俺にはそう見えてならなかった。 「勝てるのは、姉さんの、、だけ……」 「私に? ハル……?」 「ごめん…………全部終わったら……また、兄さんと、一緒、に…………」  真意を告げることなく、ハルはついに事切れた。グアルドルムは既に逃亡し、私はしばらくそこから動けなかった。  家族の、親の、妹の仇。復讐鬼となって、私はグアルドルムを追った。猫魔術“猫の知らせ”を使うことなく奴の所在を認知し、三度目に挑んだことは、奴を猫魔術を使わずに追い詰めた段階でやっと自覚した。 「ク、ク、ク、どうやら(われ)は思い違いをしていたようだ。逃げずにあの時お前を殺しておくべきだった。……否、お前の両親を殺めた時点で、吾は詰んでいたか」 「何?」 「【魔術師】とは称号ではない。異能(Passive)魔術(Active)、吾がその師父である、開祖である、頂点であることを体現する】だ。  そして貴様も今吾と同質の、本当の【異能】を所持している。【復讐者】としておこうか。吾の下のルールである異能(Passive)魔術(Active)で吾に敵うことは叶わぬが、同質の【異能】である貴様が、今唯一吾に讐をなせる存在というわけだ」  グアルドルムとの決戦は、相討ち、互いの手が互いを貫いて終わった。グアルドルムは最期の力を持って【魔術師】から私に呪いをかけた。 「ヒトの魂は輪廻転生する。だがここに【魔術師】が呪おう! 廣瀬ナツよ、貴様がヒトに成ることは最早ないだろう!」 「……【復讐者】として、お前にも同じ呪いをかけよう」  互いにそれが最期の言葉となり、事切れた。
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