OUVERTURE

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OUVERTURE

 シャワーを終え全裸で頭を拭きながらバスルームを出た。部屋の電気を消したままカーテンを全開にした窓は、東京タワーを軸とした夜景画のようだ。 「ふ〜」  右足を(かば)いながらベッドに座りバーボンを瓶ごと(あお)った。チラチラと自分を照らすテレビの明かりと、部屋に響く年末恒例の歌合戦の音が、今の心境とあまりに不似合いで滑稽だ。  歌合戦はカウントダウン代わりに点けているだけだった。平成27年の幕引き。そして俺の人生38年の幕引き。  こんな街中(まちなか)で除夜の鐘が響くか分からないが、その中でこのホテルの屋上から身を投げようと決めていた。まさか電子ロックなんて付いてないよなと今更思った。 「こんな体じゃ、このまま呑み続けてれば自然と逝くか」  番組はまだ序盤。ちょっと長いなと思いながら、ぼんやりと画面を眺めていると、少年達が跳ねたり踊ったりして何を言っているか分からない見世物が終わると、今度は丈の長いスカートをはいた少女達がぞろぞろと出てきて舞台に立った。  あぁ今度は女の子達がギャーギャーやるのかと思いながら瓶を口に当てると、テレビから優しいピアノの旋律が流れはじめた。  俺は傾けかけた手を止めた。
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