秘密

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秘密

 壱哉が立ち去った後も、しばらくアパートの部屋から動けなかった。  いっそ夏目さんに全部話してしまおうか?  でも、そんなことをしたら夏目さんは優しいから、私を守るために長年の想いを遂げる機会を永遠に失ってしまいかねない。  やがて、心の片隅で、私のことを厭うようになるかもしれない。    想像するだけで、胸が痛む。  だけど、夏目さんの幸せを願えば、私は壱哉と結婚しなければならなくなる。  今度は泣きたいような、吐きたいような、嵐のようにめちゃくちゃな感情に襲われる。  そう、まるでこの荒らされた部屋そのもの。  「もう…壱哉といい泥棒といい、一体私が何をしたって言うのよぉ」  抱えきれなくなって、涙がこぼれ落ちそうになったとき─  「凛!いるのか!?」  夏目さんの声がして、玄関のドアが激しく叩かれた。  大急ぎで涙を引っ込め、ドアを開ける。  「夏目さん、どうして?今日は出張で帰らないんじゃ?」  「川瀬さんから凛がアパートに行くって連絡もらって、心配で帰って来たけど…正解だったみたいだな」  夏目さんは荒らされた部屋を見回しながら、私の体を危険なものから守るように抱きしめた。  すごく申し訳ない気持ちになりつつも、それ以上に嬉しいし、ほっとする。  私は本当にこの人を手放せるんだろうか。  「警察に連絡は?」  「あ…まだ」  「何で?…って、何これ?」
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