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奈落
「親の決めた相手と結婚することになったから、もうここには来ない」
いつものように、私を優しく抱いた後、
いつものように、キッチンの換気扇の下でタバコをふかしながら、
彼は告げた。
その、あまりに事もなげな様子に、涙はおろか、声すら出せないまま。
玄関のドアを開け、目の前の男が視界から消えるのをただひたすら、息を殺して待った。
付き合い始めて三年目の夏の夜のことだった。
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