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「見せて、ない」
この言葉に、嘘はない。
一哉は、私が嫌がることは絶対にしなかったから。
真っ直ぐに見据えて答えると、嫉妬と苛立ちに満ちていた夏目さんの瞳が、少し落ち着きを取り戻した。
だけど─
「…じゃあ、見せて」
夏目さんの大きな手に、みっともなく浮いた肋骨を撫でられ、体が強張った。
「俺に、俺だけに、凛の全部を愛させて欲しい」
私の反応を伺いながら、少しずつTシャツが捲られていく。
「凛の他には何も…誰も要らない。兄貴と縁を切ってもいい。夏目の名前だって捨てても構わない」
そんなの、絶対にダメ。
私のために、家族と縁を切るだなんて。
それに、今でこそ子会社の社長に収まっているけれど、近い将来、夏目さんは夏目グループにとって欠かせない存在になるはずだ。
「凛の全部を受け止める。だから俺を信じて」
せめて、綺麗なままの私で夏目さんの人生の一ページに残っていたかったけれど。
それすらも叶わないらしい。
私は、赤々と光る蛍光灯の下、夏目さんの願いを受け入れた。
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