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私の背中には、子供のころ誘拐されたときに起きた事故でできた傷痕がある。
それも、一つや二つではない。
大きなものから小さなものまで、数えきれないほど。
まだ漣が生まれる前のこと。
細かい記憶は曖昧。
母が家事をこなしている間、退屈を覚えた私は一人近所の公園に行った。
そこで見知らぬ男に、「おじいちゃんが君に会いたがっている」と声をかけられ、つい車に乗ってしまったのだ。
連れて行かれた先は、ピカピカのホテル。
そこでは楽しそうなパーティーが開かれていて、私も、見たことのないような可愛いドレスを着せてもらって、すっかりお姫様気分だった。
でも、楽しかったのは最初だけ。
周りは見知らぬ大人ばかり。
『おじいちゃん』もいない。
すぐに寂しくなって、会場を抜け出し、一人泣いていたら、同じ歳くらいの男の子がやってきた。
ちょっと偉そうな子だったけど、両親を探してくれると言う。
思いのほか繋いでくれた手が優しくて。
両親が会場にいないことは分かっていたのに、言い出せなかった。
だから、気持ちの悪い酔っ払いに絡まれ、彼が殴られそうになったとき、その後ろめたさから、体が勝手に動いていた。
私が倒れ込んだ場所には、割れたシャンパングラスが散らばっていて─
そこからは、痛みと恐怖でほとんど覚えていない。
気付いたら病院のベッドの上で、両親が心配そうな顔で覗き込んでいた。
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