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対峙(Side 仁希)
本当に俺はどうしようもない大馬鹿野郎だ。
何で今の今まで気づかなかった?
凛こそが、俺が長年探していた天使だったなんて。
多分、兄貴はそのことに気付いていない。
ということは、凛は兄貴に背中を見せていないということだ。
初めて抱いた時と今日、二度確認し、凛は二度とも見せていないと言っていたが、俺は正直信じていなかった。
だって、三年も付き合っていて、結婚まで考えていた相手だと言っていたから。
それが兄貴だと思うと腑が煮えくり返りそうになると同時に、凛がその兄貴にさえ全てを見せられなかったほどのコンプレックスを抱えていたと思うと、胸が潰れそうになる。
そして俺は、痛々しく残る傷跡を前に、これ以上ないほど動揺してしまった。
直前に、凛の他には誰も要らないと─
凛を疎ましく感じるとまで言ってしまっていたから。
その舌の根の乾かぬうちに、俺が長年探していた女性が凛だったとは、とてもじゃないけれど言えなかった。
その結果、今度は凛の心を傷つけてしまった。
こんなことになるなら最初に抱いた時、いつものようにちゃんと確認すれば良かったと後悔してももう遅い。
家柄で線を引いていたのは他の誰でもなく、俺だったのだ。
でも、どういうことだ?
凛は俺と釣り合わない第一の理由に家柄も入れていた。
国会議員の孫であれば、何の問題もないはずだ。
それに、兄貴の結婚相手が凛というのも気になる。
分からないことが多すぎる。
だけど─
今はとにかく凛を追いかけなければ。
凛に続いてアパートを飛び出し、あと少しで追いつくというところで、あろうことか凛が目の前で攫われてしまった。
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