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タクシーの運転手を急かし、1時間も経たないうちに郊外にある実家に戻ってきた。
ここには、大学に入って一人暮らしを始めてから、年に一度帰るか帰らないか。
その理由はもちろん、連日凛を探していたから。
どうせ両親も多忙でほとんど留守だったし。
兄は、使用人のいる実家の方が学業に専念できると言って、実家から大学に通い、大学院卒業後も同じ理由で実家暮らしを続けていた。
「お帰り、仁希。珍しいな。でも、ちょうど良かった。俺も仁希に大事な話があったんだ」
先手必勝。
話の主導権を握らせないために、こちらから核心に切り込む。
「大事な話って…、兄さんの見合い相手のこと?」
「…ああ、もしかして、凛から聞いた?」
俺の揺さぶりにも全く動じない。
いつもどおりの穏やかな兄のまま。
「もしかして、さっき仁希も凛のアパートに行った?」
こっちは兄貴が凛を呼び捨てる度にブチ切れそうなのに─
「あそこ、古くて狭いよね。壁も薄いから、アレのとき大変じゃない?」
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