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強く握りしめた手に爪が食い込む。
我慢、我慢。
「…何で凛とのこと黙ってた?」
「何でって…凛が仁希に言ってないみたいだったし?それに、俺と凛のことであって、仁希には関係ないだろう」
今まで敵意を向けられたことがなかったから知らなかったが、こんなにいちいち癇に障る言い方をする奴だったとは。
「名前も職業も偽って、三年も付き合っていた罪悪感からじゃなくて?」
「…ああ、俺のせいで随分落ち込んだって言ってたな。仁希と違って、簡単に素性を明かせない身とは言え、悪いことをしたとは思ってる」
耐えに耐えて、やっと一つ欲しかった言葉を引き出した、と思ったら。
「でも、今回は大丈夫だろう。幸い、仁希とは付き合ってまだ日も浅いし、俺との結婚も決まってるしね」
思い切り横っ面を張られた。
「けっ…こん?凛と、兄さん…が?」
「あれ?これも凛に聞いてない?仁希がずっと探してた相手と結ばれる邪魔をしないでくれって頼んだら、『壱哉が結婚してくれるなら』って。驚いたけど、大事な弟のためなら仕方がない」
絶対に、あり得ない。
真っ赤な嘘だ。
凛はこの男のことを『壱哉』と呼んだりしない。
これまでの会話で十分分かっていたつもりだったが、ここまでだったとは。
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