1893人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
この、口の減らない男は夏目仁希。
誰もが名前くらい聞いたことのある大手ゼネコン、夏目建設の社長の息子。
ただし、次男。
なんでも、ご長男が「超」がつくほど優秀らしく、次男坊は身の程を弁えて、末端の会社である私のバイト先の社長をしているんだとか。
そんな彼は、警備員のおじさんたちからは、「ちょっと生意気だけど、なんか憎めないヤツ」として可愛がられている。
でも、私とはご覧のとおり、犬猿の仲だ。
黒髪ショートボブ・化粧っけのない顔、薄っぺらいカラダのせいで、初対面で男子高校生と間違えられ、追い返されそうになって以来、ずっとこの調子だ。
今日も、痛いところを突かれ黙るしかない私に勝利の笑みを見せつけると、夏目さんは去って行った。
「相変わらず、仲いいねえ。『あおはる』ってやつ?」
ニコニコと人の良さそうな笑顔で話しかけてきたのは、同じアルバイト仲間の川瀬さん。御年、うちのおじいちゃんと同じ、73歳。
「は!?さっきのやりとりのどこが仲良く見えるんですか!?それに、アオハルって中高生に使う言葉ですから!」
あり得なさ過ぎて、後期高齢者一歩手前のご老人相手に、ついムキになってしまう。
「まあまあ、そんな怒んないで。ほら」
と、手渡されたのは、キンキンに冷えた経口補水液と熱中症対策のタブレット。
「夏目社長からの差し入れ。口ではあんなこと言ってるけど、この間凛ちゃんが倒れたとき、たまたま現場に視察に来てた夏目建設の産業医捕まえて、すぐ診察するよう掛け合ってくれたのも夏目社長なんだからね」
最初のコメントを投稿しよう!