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「そ、そんなこと言いましたっけ!?」
「言った。俺あの時地味に傷ついたもん」
確かにあの頃は夏目さんのことなんて1ミリも好きじゃなくて。
寧ろ一哉と結婚するかもなんて馬鹿なことを考えていたくらいから、言ったかもしれない。
必死に言い訳を考えていたら─
「あー…カッコ悪。今のなし。忘れて」
夏目さんが頭をガシガシかきながらバツ悪そうに言った。
「俺がずっとフラフラしていられたのも兄貴のお陰なのに。ずっと努力し続けて、親の期待にもちゃんと応えて。なのに、よりによって兄貴に嫉妬とかほんとダサい」
やっぱり。
壱哉のことを言わなかったのは正解だった。
夏目さんは壱哉のことを兄として尊敬しているんだ。
もしかしなくても、壱哉が夏目さんに見せる顔は、一哉の顔に近いのかもしれない。
それなら、尚更言うわけにはいかない。
夏目さんを、傷つけたくない。
「確かにダサいかもしれないけど、でも、今の私が好きなのは夏目さ…仁希、です」
三年付き合っていた一哉にもこんなにストレートに伝えたことはない。
二人の関係がずっと続くと思っていたから。
だけど、夏目さんとはいつか、そう遠くない未来に終わりが来ると分かっている。
だから、できるだけ言葉にして伝えたい。
「彫りの深い綺麗な顔も、暑苦しいくらい好きっていってくれるところも…全部好き。大好きです」
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