取引

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 きつく後ろから抱きしめられ、(おさま)りかけていた熱がぶり返すように、夏目さんの体温が上がっていくのが分かる。  「凛、俺も好きだよ。…どんな凛も愛してる」  体に巻き付いていた腕の力が緩んだかと思うと、いつも通り着たままになっていたトップスの裾からそろり、と侵入して来た。  ビクッと体が強張る。  「もっと、全部愛させて」  私の反応を窺いながらゆっくりと捲られていく。  どうしよう。  このままだと本当に見られてしまう。  夏目さんになら大丈夫だろうか。  だけど、もし、万が一嫌われたら?  どうせそう長くは一緒にいられないのに。  わざわざ終わりを早めるようなことはしたくない。  壱哉が言っていた。  これまでの夏目さんのお相手はお金持ちのお嬢様ばかりだったと。  女性(ひと)なんて、いないはず。  そう考えたらどうしても勇気が出なくて─  気づけば夏目さんの手首を掴んで止めていた。  「あ…明日夏目さん出張でしょ?私もバイト入ってるし。早く寝ないと」  不機嫌になったりしないだろうかと不安が過ぎったけれど、夏目さんはケロリとした様子で言った。  「あー、そうだった。忘れてた。凛が初めて好きって言ってくれたのが嬉し過ぎて」  「えっ、初めてでしたっけ?」  「うん、初めて」  「こ、これからはいっぱい言いますから。とりあえず今日は寝てください」  「えーっ、生殺し…」  ホッとして、他愛のない会話を噛み締める。  『あと何回夏目さんに好きって言えるだろう』  そんなことを考えながらゆっくりと眠りに落ちて行った。  
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