1893人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
翌朝、夏目さんを見送った後、私もバイト先へと向かった。
「じゃあ今日は夏目社長はいないのかい?」
「はい。だから、久々にアパートに帰ろうと思って」
久しぶりに一緒になった川瀬さんと、現場の詰所で休憩時間にお茶を飲みながらおしゃべりを楽しむ。
「えっ!?大丈夫なの?確か、不審者が出るから夏目さんちに身を寄せてたんじゃなかったっけ?」
「大丈夫ですよ。そもそも不審者だったかどうかも怪しかったし。仮に本当に不審者だったとしても、あれから随分時間も経ってるし。ずっと留守にしてたから諦めてるでしょう」
「止めておいた方がいいと思うけどなぁ」
「慌てて出て来たから、色々心配で。ちょっとくらい空気の入れ替えしておかないと、うち古いから変なキノコとか生えてそうで…」
「せめて夏目さんに言っておいた方がいいと思うよ?」
「そうですね」
と、返事をしたものの、言うつもりはない。
言ったら絶対反対されるから。
夏目さんは、「凛はずっと俺の家にいればいい」と言って、常々私に早くアパートを解約するように迫っているくらいだから。
だけど、夏目さんとの別れがいつ訪れるか分からないのに、そんなことできるわけない。
住むところは確保しておくに越したことはない。
「そろそろ行きましょうか」
立ちあがろうとしたとき、詰所の入り口にいたスーツ姿の男と目が合った。
信じられない光景に足が竦む。
「清永凛さん、ちょっと」
声をかけて来たのは、壱哉だった。
最初のコメントを投稿しよう!