取引

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 「凛ちゃん、誰だい?」  「…夏目さんのお兄さんです」  「じゃ、じゃあ、夏目グループの次の!?」  「そうですよ」  ヒソヒソ話しているうちに、痺れを切らした壱哉が詰所の中まで入ってきてしまった。  「お疲れ様です。川瀬さん、でしたっけ?」  「ひっ、ひぃっ!な、何でワシの名を!?」  「夏目グループを支えてくださってる方全員のお顔とお名前くらいは把握してますよ。いつもありがとうございます」  優しい笑顔に柔らかな物腰。  川瀬さんはすっかり骨抜きにされ、「なんと有難い」と壱哉に手を合わせている。  「弟のことで大事な話があるので、清永さんをお借りしますね。現場の方には少し遅れると僕から伝えてありますので」  「ははははははいっ、どうぞどうぞ」  川瀬さんは人間に見つかったゴキブリみたいな動きでカサカサと逃げて行ってしまった。  「…何でこんなところにいるのよ!?」  「今日凛が入ってる現場の元請は夏目(ウチ)の本社だよ。何もおかしくないだろう」  付き合っていた時は一度も顔を出したことなんてなかった癖に。  正体を隠していたんだから、当然だけど。  思い出すと余計に腹が立ってくる。  「…私はあなたと話すことなんて何もない。仁希さんのことなら仁希さんに直接聞く。迷惑だから、職権濫用してバイト先に押し掛けたりしないで!」  言い捨てて、その場から猛ダッシュで立ち去った。  
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