取引

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 現場まで壱哉が追って来たらどうしようと心配していたけれど、何のトラブルもないまま、アルバイトの終了時間を迎えた。  「じゃあ、川瀬さん、お先に失礼します」  「凛ちゃん、本当に気をつけるんだよ」  「大丈夫ですってば」  途中のコンビニで、缶ビール(自分へのご褒美)とお好み焼きを買って、久々の我が家へと急ぐ。  アパートの階段を昇る前、不審者がいないか周囲を注意深く見回した。  「…って、誰もいるわけないよね。もう、みんな心配性なんだから」  独り言を言いながらドアを開け、念の為すぐに鍵をかけた。  そして、電気を点けた瞬間、今日二度目の信じられない光景に、お好み焼きと缶ビールの入った服を落としてしまった。    「…おかえり、凛」  キッチンに壱哉が立っていたのだ。  しかも、部屋の中がめちゃくちゃに荒らされている。  「な…んで、どうやってここに?この部屋、あなたが?」  恐怖で声が震えて、うまく喋れない。  「どうやってって、コレで。まだ返してなかったから」  壱哉がポケットから取り出して見せたのは、以前渡した合鍵だった。  「部屋を荒らしたのは俺じゃない。空き巣にでも入られたんだろうから、一応警察に通報しとけば?まあ、凛の部屋には盗む価値のあるものなんてないだろうけど」  余計な一言に、ついカッとなる。  「言われなくても通報するわよ。もちろんあなたのこともね」  「…そんなことしたら、仁希の人生も終わるけど?」  悔しい…。  こんなやつ、仁希さんのお兄さんでさえなければ!  「私はあなたと話すことなんてないって言ったわよね?合鍵(そんなもの)まで使って、今更一体何の用だっていうのよ!?」  
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