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思っていたよりずっと早くこの時が来てしまった。
しかもこんな形で。
だけど─
見落としていた重要なことに気が付く。
「ちょっと待って。その人…あなたの結婚相手なのよね?」
「心配しなくても大丈夫。仁希から奪うような真似はしないさ。夏目家としては真壁家と姻戚関係が結べれば俺と仁希のどっちが結婚したって問題はないだろうし」
どっちが結婚しても問題ないなんて。
お金持ちの感覚が全く理解できなくて、眩暈がしそうだ。
「彼女は…、結婚相手は夏目グループの次期社長ではなくなってしまうが、仁希にもそれなりのポストを用意するつもりだ。俺と愛のない結婚をするよりずっと幸せになれるだろう。それに─」
壱哉はゾッとするほど冷たく微笑んで見せた。
「凛曰く、仁希は超上手いらしいし」
脳裏に、私ではない誰かを抱く仁希さんの姿が鮮明に浮かんだ。
こんな形で意趣返しされるなんて。
身を引く覚悟はできていたつもりなのに、想像するだけで涙が滲む。
イヤ。
イヤだ。
あの腕が、あの熱が、他の誰かのものになるなんて。
そんな私に壱哉が追い討ちをかける。
「ああ、でも、一つだけ条件がある」
「─条件?」
「そう。俺が仁希に彼女を譲る代わりに、凛は俺と結婚すること」
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