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「待っ…!」
ほぼ同時に手を伸ばしたはずなのに、リーチの長さで負けてしまった。
夏目さんが拾い上げたのは、もちろん壱哉の電話番号が書いてあるメモ。
背中に嫌な汗が伝う。
いや、でも大丈夫。
スマホの番号なんて、いちいち覚えていないはず。
だけど─
「…凛、コレ、どういうこと?」
夏目さんの声は、震え上がるほど冷たかった。
「これ…兄貴の番号だよね?それに、兄貴の字だ」
いつも忘れがちだけど、この人仕事はできる男だった。
「あの…」
「何でこんなものが凛の部屋にあるの?」
「だからっ」
「兄貴が昼間もわざわざ詰所まで凛を尋ねて来たって聞いたけど」
自分から質問してくるくせに、全然答えさせてくれない。
「大事な話って何だったんだ?」
「それは…」
「まさか、部屋に上げたのか?」
「そんなことしてな…」
「じゃあ、合鍵でも持ってたとか?」
真っ暗な部屋に佇んでいた壱哉を見つけたときの恐怖を思い出し、初めて言葉に詰まってしまった。
「否定しないってことは、やっぱり…兄貴が凛の元カレだったのか」
吐き捨てるように呟くと、夏目さんは、壱哉のメモを粉々に破り捨てた。
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