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「『やっぱり』って…気づいてたのに教えてくれなかったんですか?」
「仕方がないだろう?確証がなかったんだ!違和感を持ったのは二人を初めて会わせたときだ」
「私だってその時初めて知って…」
「本当に?そもそも偽名とか存在しないとかいう設定自体作り話だったんじゃないのか?」
壱哉がなんぼのもんか知らないけど、さすがに酷い。
「…!そんなことして何になるんですか?あの人の財産や地位目当てに、作り話までして夏目さんに近づいて、よりを戻そうとしたとでも!?」
「じゃあ何で兄貴が元カレだったってすぐ俺に言わなかったんだよ!?」
一方的な言われように、もう我慢ならなかった。
「言えるわけないじゃないですか!『私のクズで最低な元カレはあなたの自慢のお兄さんでした!』なんて!!」
「ク、クズで最低って…確かにそうかもしれないけど。凛が熱中症で倒れた時、産業医に診せる許可をすぐに出してくれたのは兄貴だった」
夏目さんも現実に気づいたのか、ちょっとトーンダウンした。
「で?何が言いたいんですか?」
「……多分、兄貴は凛のこと本気で好きだったんだ」
「今となっては私には心底どうでもいいです。むしろ全身鳥肌立ってますけど」
「凛はそうでも兄貴は違うはず。じゃなきゃわざわざここまで来たりする人じゃない。何て言われた?」
夏目さんの真っ直ぐな眼差しが、もう誤魔化しは効かないと言っている。
深く息を吸ってから、覚悟を決めた。
「…あの人の結婚相手が、夏目さんの初恋の人かもしれないんですって」
夏目さんの目が、ほんの一瞬揺らいだのを、私は見逃さなかった。
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