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「本当に夏目さんの初恋の人だったら、譲ってくれるそうですよ。さすが、優しくてご立派なお兄さんですね」
「…は?」
「おまけに、夏目さんにもっといいポストまで準備してくれるんですって!良かったですね」
「ちょっと待て。凛を疑うようなこと言って悪かった。謝るから話を聞いてくれ」
続きを遮るように静かに首を左右に振る。
「謝る必要なんてないですよ。あの人も夏目さんも大企業の御曹司で、私はいち庶民。私を疑うのは当然のことです」
兄に続いて弟にまで捨てられる惨めな女にはどうしてもなりたくなくて。
これまで密かにシュミレーションを繰り返してきたセリフを並べ立てる。
「私が夏目さんにはつり合わないことくらい、ちゃんと分かってます。最初から身を引くつもりだったので、私のことは気にせず、幸せになってください」
言えた。
最後まで泣かずに言い切った。
後はいつかの壱哉と同じように、夏目さんがこの部屋から出ていくだけ。
─のはずだったのに。
「…だよ、それ」
「え?」
「何も分かってない癖に、分かったふりするな!!」
夏目さんは大声で叫ぶと、ドアとは逆方向に歩を進め、私の体を痛いほど強く抱きしめた。
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