クラゲのようなものを拾う

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クラゲのようなものを拾う

   夜遅く雨の中、コンビニでカップアイスを買った。  細かい雨はサァァという音だけで、傘に当たってる感じがしない。ビニール袋をガサガサいわせながら、水たまりに踏み込まないよう下を向いて歩いた。濡れたアスファルトに街灯の白い灯りが反射してる。その一つが動いた。  酔っ払って目がおかしくなったと思い、瞬きをする。もう一度よく見ると、それは白いクラゲだった。  実際にクラゲかどうかはわからない。けど、丸い傘からたくさんの触手が生えてる見た目は充分にクラゲだ。そいつは触手をベチャリと広げ、潰れたような恰好でタコみたいにズルズル動いて近づいてきた。  クラゲって歩けたっけ? 水の中じゃなくて死なないの? ていうか気持ち悪い。  私が1,2歩うしろへ下がったら、触手3本くらいを上げてふよふよ揺らした。怪しいモノじゃありませんと言ってるみたいに。  いや、充分あやしいから。心の中でツッコみ、避けて帰ろうとしたらチィチィと聞き慣れない音がする。気のせいかと思ったけど雨音に混じるそれは確かに、私の手の平くらいの小さいクラゲから聞こえてきた。  触手をふよふよ揺らして、チィチィ可愛い声で鳴いて、近寄ってきたクラゲが触手の先でちょんちょんとスニーカーのつま先を触る。  チィチィ、ちょんちょん。  足を離してもまた近づいて、チィチィ、ちょんちょん。  その縋るような動きは、このときホントにヨレヨレな私に効果絶大だった。  そろそろ結婚かも、と思ってた彼氏にフラれて落ち込んでるとこに友達から結婚式の招待状がくるし、その結婚相手が別れた彼氏だったときの気持ちときたら、とても言い表せるものじゃなかった。  仕事で疲れて誰とも連絡取ってなかったものだから、私と彼氏はとっくに別れたと周りから思われてて、これって私が浮気相手になっちゃうの? なんて思ったら誰にも何も言えなくなっちゃって、結婚式を欠席したら未練あるとか思われて同情されるんだろうかとか、誰も私の気持ちを分かってくれないだとか、毎晩毎晩グラグラ視界が揺れるくらい酒を飲んで、浮かれたカップルが殺されるのを見るためにホラー映画を毎晩毎晩視聴するくらい、とにかくヨレヨレだった。  そんな感情が大暴走してるさなかに、小さい生き物が弱弱しく動いて縋ってきたら『お前も独りぼっちなのね』なんてポエムな気分になっちゃうし、そうしたらよくわかんない生き物を悲しい自分に重ね合わせて同情してしまい、拾って家に連れ帰ってしまうのも必然だと言える、はず。  とにかくとても可哀想になったので、コンビニの袋からアイスを取り出し、直接触らなくてすむように袋越しにクラゲを掴んで捕まえる。雨音に包まれる傘の下、コンビニ袋に入ったクラゲはときどきチィチィと鳴いた。
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