クマさん強面騎士団長はスイーツがお好き

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「で、どうだったよ」  庁舎に戻り書類仕事のために執務室に入ると、後ろ手に扉を閉めたルースが聞いてきた。口元には笑みが浮かび、目はきらきらとしている。 「不審者の誤解は解けた」 「それは団員への報告で聞いたよー。そっちを聞いてんじゃないの、分かってんだろー」  わざと分かりきったことを答えて話を終わらそうとしたが、さらっと流された。 「パンケーキをご馳走になった」  マントをハンガーに引っかけ、書類を机に置きながら椅子に腰かける。直ぐに出るつもりなので、部分鎧はそのままにした。 「おー、よかったじゃん。それでそれで?」 「……」  仕事の体勢を取ったのに、ルースは誤魔化される気はないらしい。目元と口元に笑みを湛えたまま、興味本位の中にほんの少し真剣さを潜ませた視線を寄越してくる。  バーナードは答えずに書類に目を通した。  故郷の田舎から共に出てきたルースは、今もバーナードが素を見せる唯一の人間だ。そのルースにも、なんだか言いづらい。  こそばゆいというか、気恥ずかしいというか、話したいような話したくないような。そもそもどう言えばいいものかもよく分からない。 「クマが! 恋!! マジか!」 「うえっ!? まだ何も言ってないだろ」  迷いや葛藤、もろもろを全てぶっ飛ばされて、バーナードはうろたえた。無言を貫いたのに、ルースには意味がなかったらしい。 「ぶわははははは! 顔が言ってるってー! で、告白は? まだだよなー。クマだもんな。デートの約束は? あー、無理か」  勝手に人の顔色を読んで、勝手に推理をして、勝手に結論付けるルースに、少しムッとする。 「……約束はした」 「マジ!?」  意趣返しに、最後の結論だけは違うのだと言ってやると、驚愕に目を見開かれた。 「彼女が、男性一人だとスイーツ店には入りづらいだろうから、一緒に行きましょうって言ってくれて」 「あー。そうか。彼女からね。だよなー。クマから誘うわけないよな」  いつもの表情に戻ったルースが息を吐いた。  納得するなよ失礼だな。 「今度の休息日は久しぶりの非番だから、一緒にパフェを食べに行ってくれるよう、僕の方から頼み込んだ」  確かに自分からは言い出せないが、誘いに乗るくらいのことはできる。 「クマから……だと?」  顎が外れるのではないかというくらい、ルースの口が開いた。愕然とした表情のまま固まる。  沈黙。  そこまで驚かなくてもいいだろう。  バーナードは、むすりと口をへの字に曲げた。  休息日の前日。  事務仕事を片付け、街角で起こった喧嘩を鎮圧し、農地の害獣を速攻で狩った。後は報告書を作成・確認すれば今日の業務は終わりだ。 「聞いたよ、バーナード。明日はデートなんだって?」  庁舎の廊下を歩いていたバーナードは、主君であるミラー男爵のロイドに呼び止められた。  綺麗になでつけた銀髪。穏やかな瞳。七十を越えているが、姿勢の美しさから若く見える。 「は! しかしデートというものではありません」 「なるほど。バーナードらしい」  右の掌を主君に向けて斜めに上げると、ロイドが柔らかく目を細めた。 「ここ数日、日付の変わる前に帰っていないだろう。明日に備えて今日は早く切り上げなさい」 「しかし」  確かに三日間ほど騎士の出動案件が多発して、バーナードは忙しくしていた。年末は人々の気も緩み、飲酒による喧嘩が増える。野生動物の餌の乏しくなる冬季は、農地の害獣被害も多くなる。 「却下。さあ、こうしている時間が惜しい。報告書の作成と確認はルースに任せなさい」  異論は許さないとばかりに、背中を押された。その力は貴族らしい風貌とは裏腹に強く、バーナードの巨体を押しても体軸がぶれることもない。 「ありがとうございます」  バーナードはそういうわけにはいかないと突っぱねることなく、素直に従うことにした。ビアンカのことを知っているのはルースのみ。したがってロイドに話したのはルースだろう。二人で仕事の調整を済ませてくれていたのだ。ここでバーナードのやることは、二人の好意に甘えて感謝することだ。  ロイドと別れて、バーナードは庁舎を出る。そのまま帰宅の途につこうとしたが。 「……」  宵闇に慌ただしい気配がある。厩舎の扉が開き、灯りがもれていた。
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