10人が本棚に入れています
本棚に追加
梅雨の終わりにもう一度商店街を通ると、あの映画館は消えていた。
確かに覚えている。居酒屋と、閉店したカットサロンを挟んだところだ。
けれどそこにはクリーニング屋があるだけで、映画館があった痕跡すら存在しない。
街の誰に聞いても、三十年前からそこはクリーニング屋があったという。
そう言えば、と私も思い出す。私が中学の制服をクリーニングに出したのも、この店だった。
「……嘘つき」
つまり、ここに「マネシ出ひ思」なんてなかったのだ。
けれどあの日返せしそびれたタオルだけが、そこで見た映画を思い出させてくれる。
だから、こうして雨が降るたび、私はあの射影室を思い出す。
今もそこで、あの人はフィルムを回しているのだろうから。
最初のコメントを投稿しよう!