死にてぇ雨なら、憧れなんて捨てちまえ

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 劇場を飛び出すと、そこにはもう支配人さんが待っていた。  試すような視線が私に向けられる。 「しかし、御存命の方との記憶をお一人で見られる方は珍しかったです。この方、今は有名なデザイナーになられているのですねぇ」  そこまで知ってるんだ。  何度考えても不思議な人だと思う。  でも今は、それどころじゃなかった。  私はお尻のポケットに入れていた退校書類を取り出して、封筒ごと真っ二つに破る。  さらに二つに、四つにと繰り返して、最後にゴミ箱に叩きつけせた。  振り向くと、支配人さんが楽しげに目を細めている。 「中学の時の恋を忘れられない大人って、情けない?」 「いいえ、素敵ですよ」  雨よりも、雪の降るよりもゆっくりと、支配人さんが首を振る。  ポスターだらけの廊下を抜けて外に出ると、軒先で雨音が踊っていた。  でもそれは、映画館に入った時よりも少しだけ、楽しそうに見えた。 「また、来てもいいですか」 「ええ。あなたの思い出せる範囲に私がいるかぎり、いつでもお待ちしておりますよ」  そう言って、支配人さんは柔らかな笑みをくれた。  私が彼と会ったのは、その日が最初で最後だった。
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