死にてぇ雨なら、憧れなんて捨てちまえ

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 梅雨の終わりにもう一度商店街を通ると、あの映画館は消えていた。  確かに覚えている。居酒屋と、閉店したカットサロンを挟んだところだ。  けれどそこにはクリーニング屋があるだけで、映画館があった痕跡すら存在しない。  街の誰に聞いても、三十年前からそこはクリーニング屋があったという。  そう言えば、と私も思い出す。私が中学の制服をクリーニングに出したのも、この店だった。 「……嘘つき」  つまり、ここに「マネシ出ひ思(思い出シネマ)」なんてなかったのだ。  けれどあの日返せしそびれたタオルだけが、そこで見た映画を思い出させてくれる。  だから、こうして雨が降るたび、私はあの射影室を思い出す。  今もそこで、あの人はフィルムを回しているのだろうから。
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