死にてぇ雨なら、憧れなんて捨てちまえ

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 何だかとても眩しいものを見た気がして、私は目を細める。  梅雨はまだ終わらないのに、どうしてこの人はこんなにも明るく笑えるのだろう?  どうして、自分が素敵だと思う仕事が出来ているのだろう?  考えている間に私の髪の雨粒も乾いて、フィルムはだいぶ進んでしまった。 「そろそろですね。行きましょう」 「映写機はこのままでいいんですか?」 「ええ、じきにお仕舞いですから」  支配人さんのあとに続いて劇場に入ると、スクリーンの中で男の人が照れくさそうに顔を背けているところだった。  視点が変わって、今度は女の人が映る。  ほとんどはその繰り返しで、最後のワンシーンだけが二人で写っていた。  とても、映画には見えなかった。  セピア色のホームビデオのようだった。  古い映像の所々に黒いフィルムの焼けが映って、昭和のドラマを見ている気分になる。  劇場真ん中の席からは、おばあさんの声が聞こえてきた。 「にしても、ひどいわ。あたしはこんなに歳を取ってしわくちゃんなっちゃったのに。貴方だけ若いときの姿でお洒落してくるなんて」  少し鼻水が混じっていたけれど、おばあさんの声は心の底から嬉しさが滲んでいる。  声をかけられた背中が、少しだけ居心地悪そうにスーツを整える。  それから拗ねたような声で言った。 「好きな人の前だったら、いつも格好良くいたいじゃないか」 「いつも格好良かったですよお。どんな皺くちゃになってもね、それも貴方だから」  カッと胸が熱くなるような気がした。  私はなんだかその場にいるのが恥ずかしくなって、彼女たちに背を向ける。背後からは楽しげな声が聞こえてきて、そして劇場から光源が消えた。
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