雨音をポケットに入れて

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 昼休みの教室はいつもと同じように騒がしくて、何が面白いのか走り回っている男子もいた。  久しぶりの晴れ模様。  梅雨の時期にはありがたい天気だ。  じめじめとしたこの季節は本当に憂鬱な気分になる。髪の毛が広がるのが嫌でいつも一つに纏めなきゃいけないのも最悪で、サラサラの髪の毛をした横井春香さんが羨ましく思えた。  友だちが集まってきて、私の机を囲みながらどうでもいいような話をする。それが日課だった。  誰と誰が付き合っているだとか、あの子はあざとくて男子の気を引いてるだとか、担任の先生の頭皮が薄くなり始めてきてるから今度ちゃんと見てよだとか。  私はその会話を上の空で聞きながら、視線の先にいた蓮見(はすみ)くんの姿を眺めていた。  蓮見くんは窓際の席に一人で座り、外を見ながら頬杖をついている。耳にはワイヤレスイヤホンを付けているようで、何かの音楽を聞いているらしい。それを休み時間が終わるまでずっと聞き続けていた。  高一のクラスになってもう二ヶ月が経過しているのに、彼はいつも一人でいる気がする。蓮見くんはこのクラスにいないような感じで、避けられている訳じゃないと思うけれど、誰も近寄らない。  当然のことながら、私も一度も喋ったことはなかった。 「瞳、何見てるの?」  突然名前を呼ばれて、私は慌ててしまう。 「え? いや、別に」  みんなが一斉に視線を私の先に向ける。 「ああ、蓮見か。あいつさ、いっつも一人じゃん? 友だちいないのかな?」 「仲良く誰かと話してるの見たことないよね。いつも席に座って外を見ながら音楽聞いてるんだよね。なんか、ちょっと怖くない?」  わかるー、と友人たちは盛り上がっていた。私も周りに合わせるように笑顔を作る。  わからないといけないこの空気。  私はもう一度だけ蓮見くんをチラっと見て、すぐに視線を逸らした。  蓮見京也。  肌が白くて、女の子みたいに華奢な体つき。髪が耳に掛かるぐらいの長さで、そこから白いイヤホンがチラチラと見え隠れする。前髪は目元を隠すように長く伸びている。  いわゆる、陰キャ。  部活にも入らず、友だちもいない。成績は優秀みたいだけど、授業中も積極的に参加するタイプでもない。  彼を見ると、決まって外を見ていた。何が楽しくて毎日毎日、あんなにボーッとできるんだろう。  私は密かに、彼を意識していたのかもしれない。
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