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1 『ほうかご』
ある晴れた春の日の朝、誠造(せいぞう)爺さんが自宅の庭で花壇の手入れをしていると、家の前の通りを、ランドセルを背負った小学生の兄妹が通りました。
兄は高学年、妹は低学年に見えました。
「お兄ちゃん、ほうかごはひがしこうえんであそぼうよ。すべりだいのりたい」
「じゃあ、帰りは公園行くか」
「うん」
誠造爺さんは、幼い兄妹が仲良く登校する後ろ姿を目を細めて眺めていました。
誠造爺さんが夕食の買い出しを終えて家の近くまで来ると、二台の消防車が消化活動をしていました。
まさかと思い、野次馬を掻き分けて急いで自宅の前へ行くと、燃えていたのは誠造爺さんの家でした。
後日、誠造爺さんは、警察官から怪しい人を見かけなかったかと聞かれました。
誠造爺さんは思い当たる事が無かったので、「特に無いです」と答えました。
その時、目の前の通りを、以前見た小学生の兄妹が笑顔で話しながら通って行きました。
15時40分頃だったので、学校の帰りなのでしょう。
(今日もこれから公園かのぅ)
誠造爺さんが警察官と話しながらふと兄妹の後ろ姿を見ると、妹は誠造爺さんの方を振り返り、微笑みを浮かべ、再び前を向き、兄妹は遠ざかって行きました。
(ま、まさか、あの時の『ほうかご』は『放課後』じゃなくて『放火後』なんじゃ…)
「どうかしましたか?」
警察官が誠造爺さんに尋ねました。
「あ、あの…」
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